下北沢Ｒハイツ　４０２

『ブレてない男』という言葉から、すぐ連想できる数少ない男。

それが、私にとっては秋川雅史(なんとなく・・)と、
下北沢のラーメン屋『やじるし』の店主、「やじるし」くらいだ。

名前を知らない為、私達は『やじるし』の「やじるし」と呼ぶ。
安易ですみません。

電柱の「やじるし」
に従って、
ひたすら
迷路のように
進んでゆくと
辿り着く。
だから、
『やじるし』
・・・。















隠れ家的な
ラーメン屋。

なんで
こんな所に？
という場所に
ある。
それが、
『やじるし』。

けんちゃんが
最期の時、
死ぬ前に
食べたいもの。









初めて訪れたのは２年前だった。

下北沢に引っ越してきたばかりで、まだ結婚していなかった。
その時は、「美味しかったから、また来よう。」
と思ったくらいの印象に過ぎなかった。

それが、尋常じゃないほど寡黙な男・「やじるし」について、
二度三度と重ねて通うたびに、気づかされたことの数々。

◎たった一人で店を切り盛りしている。
◎昔の中田ヒデのような髪型を常にキープしている。
　いわゆるベッカムヘア。
(つい最近、伸びて普通の髪型に…不本意)
◎大・中・小と計６つの寸胴鍋が、目立って汚れる事なく
　常にキレイに手入れがされている。
◎リケンのラップなどの台所用品が常に定位置をキープしている。
◎当たり障りなく、いつも流れている有線。(Ｊ－ＰＯＰ)
◎全席に洋服のしみとり(手書き容器)が置かれている気遣い。

何度行っても、いつもと変わらぬ几帳面な後ろ姿に、
ラーメンの味に映し出された彼の真面目さを感じ取れる。
 
あっさり味
の中に
パンチの効いた
こくと深みに、
ドぎつくない
背油で
マイルドさ
を演出。


几帳面で潔癖だが、押し付けがましくない。
寡黙で頑固だが、怖くはない。

「いらっしゃいませ」と「ありがとうございます」以外、
喋ったのを一度も聞いたことが無い。

券売機の営業を７年間も続けた経歴を持つ。
(数少ない彼に関する情報・・何かの記事より。)

そんな男、『やじるし』の「やじるし」。

「『やじるし』の「やじるし」、いるじゃん。ああゆうひたむきさ
が、やっぱり必要だよね。」
「『やじるし』の「やじるし」さ・・・何才だと思う？案外同世代とか。」
「『やじるし』の「やじるし」、実はサッカーファンっぽいよね。」
「『やじるし』の「やじるし」、髪伸びた。しかも、おろしてた・・。」
「ほんとに！？なんかショック。」
「『やじるし』の「やじるし」・・・(しつこい)」
私達は彼に、大いに注目してることは間違いない。

裏のマンションの『たばじ』(たばこじじぃ)と似た感覚で
友達でもなく、まともに会話を交わしたことも無いのに、
中途半端な知り合いよりは間違いなく
私達のこれまでの軌跡をよく知ってるであろう、
『やじるし』の「やじるし」。

私達は、時には仲良く、時には断じて近寄りたくないほどに険悪。
どんな日も、私達も店内では一言も会話を交わすことは無い。
(いつからかのラーメン屋での暗黙のルール)

この長いようで短かったような激動の２年間。
けんちゃんは、金髪→染めた黒髪→ソフトモヒカン→台湾アイドル風
(もみ上げなし、襟足長め)→白髪交じりの現在(ナチュラル)。

私は、だんだん太る→妊娠→どんどん全体的にデカく→出産
→だんだん全体的に縮小→ちょいやつれの現在。

子連れラーメン→ぐずって泣かれ、まともに食べられない
→トイレで授乳(そこまでするか)→子連れラーメンを断念
→交代ラーメンへ。(現在に至る)

一方の「やじるし」は、その間も依然変わらぬ後ろ姿のまま。
(変わったのは髪型のみ。)

お互い、まるで無声映画を観るように経過した、２年間。

「はい、交代。」
財布じか持ち
姿で、片方が
食べてる間
近くの薬局
などで待つ。
「どうだった？」
「やばかった・・。」
「つけ麺？普通？
どうすんの？」
「いや、まだ迷っ
てんだよね・・」
「わかる・・・」

わからなくて
結構！








私の番の時に、食べてる最中だったがカップルが来て
席をずれたことがあった。その時初めて「ありがとうございます。」
と「やじるし」がたった一度だけ微笑んだ。
その時は、あまりの衝撃に間違えて恋に落ちそうになった。
(間違えすぎ)

賛否両論あるらしい、この店のラーメン通のうんちくなどに関係なく
私達は「やじるし」が作るラーメンが好きだ。
毎回、本気で普通の正油かつけ麺にするか、味玉つけるか悩む。
具合が悪い時も食べられる、やさしい「やじるし」のラーメン。

『ブレてない』とは。
あらゆる道に於いて、その道を完璧に究めてなくても
常に究めるために模索し続ける、
根本的な軸がブレてない事が重要と思う。

券売機の営業を続けながらあらゆるラーメンを食べ、
寡黙に追求し続けたんであろう、『やじるし』の「やじるし」。


『やじるし』の「やじるし」が指す、やじるしは

今日もきっと、ブレてないだろう。